表2 エビデンスのレベル推奨度の決定基準(皮膚悪性腫瘍グループ)
A.エビデンスのレベル分類
I システマティック・レビューメタアナリシス
II 1つ以上のランダム化比較試験
III 非ランダム化比較試験
IV 分析疫学的研究コホート研究症例対照研究
V 記述研究症例報告症例集積研究
VI 専門委員会や専門家個人の意見
B.推奨度の分類
A 行うよう強く勧められる
(少なくとも1つの有効性を示すレベル I もしくは良質のレベルIIのエビデンスがあること)
B 行うよう勧められる
(少なくとも1つ以上の有効性を示す質の劣るレベルIIか良質のレベルIIIあるいは非常に良質のIVのエビデンスがあること)
C1 行うことを考慮してもよいが,十分な根拠がない
(質の劣るIII-IV,良質な複数のV,あるいは委員会が認めるVI)
C2 根拠がないので勧められない
(有効のエビデンスがない,あるいは無効であるエビデンスがある)
D 行わないよう勧められる
(無効あるいは有害であることを示す良質のエビデンスがある)
基礎実験によるデータ及びそれから導かれる理論はこのレベルとする.
根拠とは臨床試験疫学研究による知見を指す.
本文中の推奨度が必ずしも上表に一致しないものがある.国際的にも皮膚悪性腫瘍診療に関するエビデンスが不足している状況,また海外のエビデンスがそのまま我が国に適用できない実情を考慮し,さらに実用性を勘案し,(エビデンス・レベルを示した上で)委員会のコンセンサスに基づき推奨度のグレードを決定した箇所があるからである.


医学用語解説
エビデンス(の)レベル エビデンスとは医学的な根拠という意味です。エビデンスのレベルとは、ガイドラインが推奨する検査法や治療法が、どの程度信頼できるエビデンスによって実証されているのかを示す指標です。メタアナリシスやランダム化比較試験など、信頼性の高いエビデンスによって実証されている場合は、エビデンスレベルは高くなります。皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインでは、エビデンスレベルはI〜VIの6段階に設定され、数字が小さい方が信頼度は高くなります。
推奨度(すいしょうど) ガイドラインに記載されている検査法や治療法を行うことを、どのくらい強く勧めているのかを示す指標です。推奨度の強さは、一般にエビデンスレベルに基づいて決められ、エビデンスレベルが高い検査法や治療法ほど推奨度は高くなります。皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインでは、推奨度はA〜Dの5段階に設定されています。推奨度Aの場合は、その推奨文の内容を行うことが強く勧められることを意味します。
皮膚悪性腫瘍
(ひふあくせいしゅよう)
皮膚に生じるがんのことです。悪性腫瘍は良性腫瘍と比べると、腫瘍が短期間で大きくなったり、ほかの臓器に広がりやすかったりする特徴があります。皮膚悪性腫瘍は肉眼で見付けることができ、生命を脅かすようになるまでには時間がかかるため、早期に発見し、適切な治療を受けることで治る確率が高いとされています。
システマティック・レビュー 医学雑誌や学会発表などから臨床試験の報告を集め、その内容を評価し、要約してまとめたものです。最近では客観的な立場から、試験方法や解析方法などが一定の基準を満たした医学論文を集め、内容を厳しく吟味(ぎんみ)して、その結果を報告したものを指すのが一般的です。系統的レビューともいい、一般にエビデンスとしての信頼性は高いとされています。
メタアナリシス システマティック・レビューのひとつです。病気や治療法など共通した研究データを集め、統計学的な手法を用いてデータを統合し、総合的に評価する方法です。過去の多数の研究結果から、一定の見解を導き出すために用いられます。一つひとつの試験の結果が異なる場合や、症例数が少なくて正確な評価ができない場合などに有効な手法です。メタ解析ともいいます。
ランダム化比較試験
(ランダムかひかくしけん)
無作為化比較試験ともいいます。2つ以上の治療法や検査法などを比較する臨床試験では、対象となる患者さんを2つ以上のグループに振り分けますが、その際にコンピュータの乱数表やくじ引きなどの方法を用いて、作為性が入り込まないようにする試験のことです。患者さんを振り分ける際に偏りが生じないため、治療法や検査法の有効性を客観的に調べることができるので、結果の信頼性は高いとされています。
非ランダム化比較試験
(ひランダムかひかくしけん)
試験の対象となる患者さんを2つ以上のグループに振り分ける際に、無作為化の手法を用いずに振り分け、比較を行う試験のことです。グループ間で患者さんに偏りが生じる可能性があるため、結果の信頼性はランダム化比較試験よりもやや劣るとされています。
分析疫学的研究
(ぶんせきえきがくてきけんきゅう)
疫学研究とは多くの人を対象に、病気の発症率や有病率、病気の原因などを調べることを目的に行われる、研究の総称です。特に病気の原因となる要因を分析する目的で行われる疫学研究を、分析疫学的研究と呼びます。
コホート研究
(コホートけんきゅう)
コホートとは集団という意味です。ある病気が発症する危険性の高い集団と、そうでない集団を長期間観察して、病気の発症率や進行の程度、死亡率などを調べる研究方法です。例えば、喫煙習慣のある集団と禁煙習慣のない集団の数年後の病気の発症率などを比較すると、喫煙が病気の発症に及ぼす影響を検討することができます。
症例対照研究
(しょうれいたいしょうけんきゅう)
すでにある病気を発症してしまった患者さんと、その病気を発症していないけれど、その患者さんと年齢や性別などがマッチした人を選び、カルテなどの医療記録などからその病気の原因を探る研究方法です。病気の患者さんを症例、病気のない人を対照というため、症例対照研究と呼びます。
記述研究
(きじゅつけんきゅう)
記述的研究ともいいます。「ある患者さんにある薬を投与したら、症状が改善した」というように、患者さんの経過を記述して報告する研究のことです。
症例報告
(しょうれいほうこく)
ある病気の患者さんについて、一例から数例の治療経過や結果をまとめて報告したもので、記述研究のひとつです。病気そのものが珍しい症例、珍しい病気ではなくても稀な症状や経過などを示した症例、通常はあまり行わない特別な治療が有効だった症例などが報告の対象となります。
症例集積研究
(しょうれいしゅうせきけんきゅう)
ケースシリーズ研究ともいいます。ある治療法を、何名かの患者さんに用いて治療経過や結果を観察し、そのデータをまとめて報告したもので、記述研究のひとつです。症例集積研究では対象となった患者さんの数は多くなっても、結果を比べる対照を設けていないことが多いため、症状の改善や副作用の発現などがその治療によるものかどうか明らかにすることはできません。そのため、他の分析的研究よりもエビデンスレベルは低いとされています。
エビデンス/証拠(しょうこ) エビデンスとは医学的な根拠という意味です。一般には、メタアナリシスやランダム化比較試験など信頼性の高い手法によって実証された結果をエビデンスと呼びます。しかし信頼性は高くはありませんが、症例報告や専門医の意見などもエビデンスのひとつです。稀な病気、特殊な治療法などの場合はランダム化比較試験を実施することが難しいため、症例報告や専門医の意見なども重要なエビデンスになります。皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインでは、エビデンスの信頼性をI〜VIの6段階で表しています。
基礎実験(きそじっけん) 新しい検査法や、治療法の有効性や安全性などを調べるため、細胞の成分、培養した細胞、動物などを用いて行う実験のことです。前臨床試験ともいいます。これに対して、患者さんや健康な人を対象に行う実験を、臨床試験と呼びます。
臨床試験
(りんしょうしけん)
新しい検査法や、治療法の有効性や安全性などを調べるため、患者さんや健康な人を対象に行う試験のことです。あらかじめ試験実施計画書を作成し、それに則って、十分に管理された条件の下で行われます。新しい検査法や治療法は、臨床試験で有効性と安全性が確認された後に承認を受けて、初めて一般の診療現場で使用できるようになります。
疫学研究
(えきがくけんきゅう)
多くの人を対象に、病気の発症率や有病率、病気の原因などを調べることを目的に行われる研究の総称です。代表的なものにコホート研究や症例対照研究があります。疫学研究の結果、病気の原因が分かれば予防対策が立てやすくなり、さらにその病気に罹った場合は、適切な治療法やその後の経過を推測するのに役立ちます。
コンセンサス 合意、総意、大多数の意見といった意味で、この場合はガイドライン作成委員会のメンバーの合意を得たという意味です。ガイドラインの作成時には、すべての病気や治療法について信頼性の高いエビデンスが揃っているわけではありません。また、海外のエビデンスをそのまま日本人に当てはめるのは適切ではないこともあります。そのような場合には、委員会メンバーのコンセンサスを得て、最終的にその治療法の推奨度を決めることになります。


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