―診療ガイドライン活用事例紹介―

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公益社団法人地域医療振興協会 練馬光が丘病院(東京都)の取り組み

 公益社団法人地域医療振興協会練馬光が丘病院は、人口71万余の練馬区において、28の診療科、324床を備える総合病院として地域に貢献しています。今回は、カンファレンスで診療ガイドラインを活用している取り組みを取材させていただきました。


 総合診療科のカンファレンスにおける診療ガイドラインの活用

 総合診療科では、診療ガイドラインと米国内科専門医試験問題集(以下MKSAP)を用いて、テーマごとに治療法を検討するカンファレンスを週に一度開いています。カンファレンスでは、事前に配布するMKSAPの問題について、主に後期研修医が回答し、司会を兼ねた指導医が解説します。取材に伺った日は「喘息」がテーマで、呼吸器内科の医師と薬剤師も交えた参加者は約20人でした。まず、司会の指名で後期研修医が回答します。不正解だった場合や一般に判断に迷いがちな問題に関しては、司会が詳しく解説します。解説中では、問題と関連する疫学、病態、診断、治療の知識を国内外の診療ガイドラインと論文を基に確認していきます。
 このカンファレンスで用いられる全てのデータは、国内外の診療ガイドラインと論文等のエビデンスに裏付けられていることが、スライド上の出典で明示されます。主として参照されていたのは、『喘息予防・管理ガイドライン2015』、“The Global Initiative for Asthma”、“Expert Panel Report 3:Guidelines for the Diagnosis and Management of Asthma(以下EPR)”、“National Asthma Education & Prevention Program”、“BTS/SIGN Asthma guideline 2014”です。これら診療ガイドラインには、共通点、相違点があることが司会から解説されます。例えば、総論としてstep2(EPRはstep3)では吸入ステロイド薬と長時間作用型β-2作動薬を推奨する点は共通するものの、各論で見ると、国によってstepごとのコントロール状態の評価項目、内容に若干の違いがあります。海外の診療ガイドラインを参照する場合には、日本の診療ガイドラインのどのstepに該当するかを確認する必要があることが示されます。
 MKSAPの解説に用いたスライドは、患者や医療チーム内のコミュニケーションツールとしても活用されます。診療科内でスライドを共有することで医師の診療方針のばらつきが少なくなり、質も維持されるとともに、看護師や薬剤師など他職種とも共通認識を持って診療がしやすくなることが期待されます。患者に対しては、図表を見て話したり、印刷して渡したりすることで理解の促進を図っています。


 外科、総合診療科、消化器内科のコンセンサス・カンファレンスにおける診療ガイドラインの活用

 外科、総合診療科、消化器内科との合同で、共通のトピックをテーマに不定期にカンファレンスを開いています。今回のテーマは虫垂炎です。ここでも、総合診療科のカンファレンスと同様に、エビデンスを一つずつ確認していくことに重きが置かれています。虫垂炎それ自体の日本版診療ガイドラインはなく、『急性腹症診療ガイドライン2015』の一部に急性虫垂炎関連の身体診察、検査、診断についての記載がありますが、治療に関する記載はありません。用いられていたのは、主に“WSES Jerusalem guidelines”です。カンファレンスの全体的な流れは、“WSES Jerusalem guidelines”を用いて、海外の診断・治療の主流を解説した上で、練馬光が丘病院の環境を活用した診療指針を検討するというものでした。例えば、急性虫垂炎の診断に関して、“WSES Jerusalem guidelines”では、超音波検査が推奨される一方『急性腹症診療ガイドライン2015』ではCTが推奨されています。こうした相違が生じるのは、一般に、CTの病院保有台数が海外と日本とでは異なるためと解説されます。この点、練馬光が丘病院にはCTが2台あることから、病院として虫垂炎の診断にはCTを用いることが共有されました。
 このように、コンセンサス・カンファレンスでは、病院としての標準治療の指針が診療科、医師によって相違がないよう、診療指針を多科で共有することを目指します。


 3. まとめ

 総合診療科のカンファレンスでの、MKSAPの解説用データ全てを国内外の診療ガイドラインと論文に遡ってエビデンスを確認し比較検証する取り組みは、医師の生涯学習の姿勢そのものであるように思われました。また、総合診療科のカンファレンスと外科、総合診療科、消化器内科のコンセンサス・カンファレンスの両方で、診療ガイドラインのエビデンスに則った議論、解説がなされており、エビデンスに基づく診療文化が根付いていると感じました。こうした取り組みを通じて、患者や医療チームが診療ガイドラインの内容を共有し、質の高い医療が患者中心に提供されることを目指しています。

(2017年4月26日掲載)